ernst@hatenablog

Konstanz als Heimatstadt

池田清彦・新しい生物学の教科書

新しい生物学の教科書 (新潮文庫)

新しい生物学の教科書 (新潮文庫)

高校の生物を思い出すにも,生物学の明らかにしていないことを知るにもよい本です。


本書については既にyaeno_29さんが紹介をしておられます。そちらにもあるように,本書を通読した印象としては,高校生物を復習する教科書ではないため,タイトルの付け方としては適切ではないような気がしました。むしろ連載の原題の方がぴったりくるような感じがします。教科書としての役割を期待するなら

の方がよいかもしれません。
本書は24章構成で,最後の2章が「中学校理科教科書を読む」「小学校理科教科書を読む」ですが,それ以外は基本的に生物学のトピックごとに教科書の記述の適切性を論ずるスタイルとなっています。生物学が明らかにしてきたところを読むと,なるほど生物のしくみや生態系とはなんとうまくできていることかと感心させられます。他方で,生物学がまだ明らかにしていないことも多くあることに改めて気づかされます。とくに遺伝・変異・進化の部分では,さまざまな立場が紹介されていますが,どれも決定打を欠くようです。筆者は「構造主義的な進化論」(本書・90頁など)の立場から独自の説を展開していますが,別著で論じているようで,この本を通読してもこの考え方の全体像は明らかになりません。機会があればその別著の方も読んでみたいと思います。
本書の皮肉が効いた記述はむしろ最後の2章の方に目立ちます。例えば,

あたたかくなって,草木のめがのび,いろいろな花がさきはじめている。植物や動物が季節によってどのようにかわっていくか,1年間調べていこう(大日本図書・たのしい理科 4上)

身の回りの動植物の季節変化を1年かけて調べていくのはもちろん悪いことではないのだが,生物そのものに興味がわかなければ観察を強要されても,生徒達はあまり楽しくないかもしれない。生物の好きな子は,自分で採ったり,飼ったり,育てたりするのが好きなのであって,観察はその結果であるに過ぎない。(本書・353頁)

小学生のころうっすらそのように思った記憶があります(笑)。

メダカ(ヒメダカ)の散乱の様子と卵の発生の観察実験が全ての教科書に載っている。メダカを飼育して卵を産ませよう,とすべての教科書に書いてあるところをみると,日本国中の小学5年の教室ではすべてメダカを飼っているのかもしれない。画一化もここまでくれば立派なものである。(本書・358-359頁)

確かに小学校5年のときにメダカを飼っていた覚えがあります。いまでもそうなのでしょうか。メダカをめぐってクラスでもめごとが発生したような記憶が…。