井上寿一・アジア主義を問いなおす
- 作者: 井上寿一
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2006/08
- メディア: 新書
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対米協調か,アジア重視かという外交路線上の対立軸は,日本にとっては近代化後の継続的な問いであり,それは今も続いています。筆者はとりわけ1930年代におけるアジア主義と現在のアジア主義との共通点に注目し,1930年代の政治・外交・社会思想から現在に生かせるものをくみ取ろうとしています。
本書のおもしろい部分は2点にまとめられます。第1は,1930年代から少なくとも日独伊三国同盟を結ぶまで,日本は対米協調路線を重視してきたこと,そしてその成果は一定程度あったことが紹介されていることです。一般的には,世界恐慌後のブロック経済化の中で,門戸開放を要求するアメリカと日満支経済圏を維持しようとする日本との対立が,日米の戦争の原因の一つとなったと理解されています。しかし本書は,日本のいわゆる経済「ブロック」内ではまったく経済を動かすことはできず,アメリカからの資本の流入がなければ経済圏自体が成立しなかったことに注目します(本書・80頁以下)。そもそも満州国の建国自体がそのような意図のもとでの動きであったことも分かります。また国際連盟の脱退も実はこうした文脈の中で,中国大陸における緊張を緩和するための日本側の対応であったこと,それは短期的には成果を上げたことも明らかになっています。
第2は,対米協調とアジア重視の二つは相互排他的な選択肢ではないとする主張です。筆者は,1930年代における蝋山政道の主張をヒントにしています(本書・233頁以下)。1930年代も現在でも,アメリカの存在なしにアジア地域主義の経済は成立しない現実を筆者は直視します。そして,いわゆる「東アジア共同体」構想については,自由貿易協定(FTA)を地ならしする目的も含めてその必要性を論じています。