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Konstanz als Heimatstadt

畑川剛毅・線路にバスを走らせろ

線路にバスを走らせろ 「北の車両屋」奮闘記 (朝日新書 56)

線路にバスを走らせろ 「北の車両屋」奮闘記 (朝日新書 56)

DMVデュアル・モード・ビークル)の開発の経緯が豊富なエピソードとともに紹介されています。


バスと鉄道の双方の機能を兼ね備えるDMVは,ローカル線維持の切り札として期待され,全国各地で導入に名乗りが上がっています。九州でも島原鉄道南阿蘇鉄道などが導入を検討しているようです。本書はこのDMVがなぜ生まれたのかを詳しく紹介しています。
「必要は発明の母」という言葉がまさにぴったりなのが,このDMV開発史です。JR北海道の経営環境は他の鉄道会社と比べても厳しい一方で,赤字ローカル線の廃止には地元からの反対が強い状況です。その中でJR北海道として尽くすべきことは尽くしたと言える試みがDMVでした。本書ではDMVの着想から,さまざまな困難を乗り越えて営業運転に至るまでが描かれると共に,他のJR北海道の新型車両の開発についても説明がされています。寒さと雪,そしてとりわけ道東の軟弱地盤が鉄道にとってはいずれも過酷な条件であり,にもかかわらず少ない開発費と少ない人員で創造的な試みが繰り返される様子が分かります。
何故そのようなことが可能になったのか,そのヒントが2つ紹介されています。1つは各人の趣味が開発に生かされていることです(本書・52頁)。この点はGoogleの20%ルールを想起させます。もう1つは切迫感の共有です(本書・170頁)。

「アイデアは個人からしか出ません。それをシステムに組み込むのが組織の仕事。切迫感は経営に近いほど,つまり組織の階段を上るほど強い。だから,技術開発の陣頭に立つ者は,自分で考えるのも大切だし,部下に切迫感を共有させるのはもっと大切だ」

という柿沼博彦・JR北海道副社長の言葉は,他の組織にもあてはまるのではないかと思われました*1

*1:プチ鉄としては,新書にもかかわらず巻頭8頁にJR北海道の車両のカラー写真がついていることに惹かれました。