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Konstanz als Heimatstadt

Joel Best・統計という名のウソ

統計という名のウソ―数字の正体、データのたくらみ

統計という名のウソ―数字の正体、データのたくらみ

議論に数字を持ち出すことの危険性と,統計リテラシーの必要性を改めて認識させます。


著者は『統計はこうしてウソをつく』でも知られるデラウェア大学社会学・刑事司法学部教授で,本書はその続編として出版されたものです。翻訳書であるために使われている具体例が全部アメリカ国内のものであること,また翻訳の一部に読みづらいところもあることがありますが,それでも本書は重要な内容を読者に提示しているように思います。
本書が主張していることは大きく2つあります。1つは,「統計はすべて社会行為の産物,社会学者が社会的構成と呼ぶ作用の産物だ」(本書・14頁)ということです。数字は客観性があるように見え,それが議論の説得力を著しく高めたり,場合によっては議論の余地さえ失わせてしまうことがありますが,しかしその数字は誰かが何らかの意図を持って収集・分析し,解釈したものであることを忘れてはいけないということです。本書はこのことを主張するために

  • 抜け落ちている数字
  • 混乱を招く数字
  • 恐ろしい数字
  • 権威ある数字
  • 魔術的な数字
  • 議論を呼ぶ数字

の6章にわけて,具体的なデータの裏にある真相を示す作業をしています。
もう1つは,以上の作業の結果として,「統計リテラシー」という考え方をもっと広げる必要があるという主張をしていることです(本書・237頁以下)。もちろん細部にはさまざまな問題が残されていますが,総論的には著者はこの運動に賛成しています。統計は数学の世界の問題ではなく,それをどう解釈するか─数字はどのように理解され,利用されるべきかという問題が,重要な技能として位置づけられるべきであるとします。