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Konstanz als Heimatstadt

湯浅誠・反貧困

反貧困―「すべり台社会」からの脱出 (岩波新書)

反貧困―「すべり台社会」からの脱出 (岩波新書)

「すべり台社会」には「溜め」が必要と説きます。


勝ち組・負け組格差社会という言葉が使われるようになって久しいですが,本書のタイトルには「貧困」という言葉が使われています。本書がまず明らかにするのは,働いても最低生活費にまで到達できないという社会問題です。そして,日本社会に存在している(していた)雇用・社会保険・公的扶助という三層のセーフティーネット(本書・19頁)にほころびが生じ,そこから漏れる人たちが続出している状況を明らかにします。このような日本社会の現状を本書は「すべり台社会」と呼んでいます(本書・30頁)。本書が問題にしているのは,この三層のセーフティーネットが非正規雇用については全て抜けており,結果として非正規雇用者が貧困問題に直面している状態です。こうした問題を解決するために本書が提唱するのが「溜め」(本書・90頁)です。これは努力を引き出すための条件であり,貧困に陥らないための条件整備を指しています。
格差社会を取り扱った新書は数多いですが,雇用・社会保険・公的扶助の3つの要素を一貫した視点の下で検討し,その問題点を明らかにしているのが本書の特色であるように思います。また本書はいわゆる「自己責任論」と随所で格闘しており,その部分も読みどころの一つです。