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碓井光明・公共契約法精義

公共契約法精義

公共契約法精義

我が国における財政法学の第一人者である著者は,すでに1995年に『公共契約の法理論と実際』というこれまた名著を出版されていました。行政契約で院試論文を書いていた頃にこの本や著者のその他の論文はよく読んでいましたが,実務に対する鋭敏な感覚とそれを巧みに理論化する構成力にいつも尊敬の念を抱いていました。幸運なことに同時期に著者は九州大学に集中講義にいらっしゃったので,自治体の財政・財務法に関する講義を直接拝聴する機会もありました。

その頃の理論状況と比較して,この『公共契約法精義』の最大の特色は,「公共契約」の名の下に民間委託・PFI契約が明示的に含まれたことであろうと思います。公共契約の定義そのものは前著からそれほど大きく変わっているわけではありませんが,新たにPFI法が立法化され,またPPP(Public Private Partnership)が注目を集めている現状から,この部分に関する記述が厚みを増したものと思われます。

次に興味深いのは,「付帯的政策遂行」をめぐる問題がまとまって扱われていることです。調達契約に代表される公共契約で最も重視されるべきは「経済性」であることは明白ですが,それと同時に(場合によってはそれとは矛盾して)別の価値(たとえば中小企業の保護・環境保護など)の実現も課題となることがあります。このこと自体はこれまでもたびたび言及されてきましたが,同書は具体的にどのような価値が追求されているのか,どのような手法が実務ではとられ,そこにはいかなる問題があるのかを詳細に論じています。こうした分析は,行政契約法総論を考える上でも極めて有益な示唆を与えてくれます。

実務状況への細かいフォローは本書においても随所に見られます。以前であれば専門の業界紙(日経コンストラクション・日経アーキテクチュアなどの工学系の雑誌)でしか取り上げられていなかった新しい契約方式(CM方式・VE方式など)についてもかなり細かく紹介がなされています。本書を通読すれば公共契約法がまさに「法学研究の宝の山」(はしがきiv)であることが強く印象づけられます。同書から受けたインパクトやインスピレーションを少しでも自分の研究に生かすことができればと考えています。