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金子宏=佐藤英明=増井良啓=渋谷雅弘編著・ケースブック租税法

ケースブック租税法 (弘文堂ケースブックシリーズ)

ケースブック租税法 (弘文堂ケースブックシリーズ)

ロースクール開設から早1年余,プレテストまで1ヶ月を切りました。そのロースクールでおそらく現在もっともポピュラーな教授法だと思われるのが,いわゆる「ケースメソッド」です。これに対応して多くのケースブックが出版されていますが,今回はその中でも僕が最も優れていると思うこの一冊を取り上げます。

同書の初見の感想は,「アメリカで定評のあるケースブックの雰囲気と似ている」ことです。判決文の紹介の仕方や長さ,各素材のあとに付されているNOTE,判決文以外に論文や報告書も取り入れられている点などがその具体的な類似点です。また評釈・参考文献が充実しており(かなり厳選して挙げられているように思われました),ロースクールのみならずその他の用途(学部生の試験勉強や研究者による文献検索等)にも役立つ汎用性の高さを示しています。4人の編著でありながら全体の統一性がかなり高く,共著であることをほとんど感じさせません。こうした特色の理由と思われるのが,金子宏先生が1980年代の段階でかなり下準備をされていたということです(同書・はしがきiv)。

ロースクールにおけるのみならず,学部の演習でも問題になるのが,「ケースが先か,システムが先か」という点です。同書はケースブックの限界も意識しており,並行して体系書を読むことを勧めています。ロースクールにおける教育の目標は,おそらく実務にすぐ役立つ法律学を身につけてもらうことにあるのでしょう。そうだとすれば,体系の問題(システム)よりも,個々の事件(ケース)でいかなる法的構成がとられているのか,紛争になったときどう論理構成すればよいのかを知っておくことがとても重要になります。ケースメソッドはこのような教育目的には適合的です。他方で,法律学未習者や当該分野についてあまり知らない人が学習を始めた場合には,その科目の全体像(システム)が頭に入ってないと個々の知識を体系化して定着させることができず,効率的な勉強にはならないように思います。(本学では)わずか2単位という時間的制約の中で,まずシステムを語り,それをベースにケースに進むということは,教授経験の豊富な先生方であっても並大抵のことではないと思います。このような教える側の負担を少しでも軽くするには,教材がこうした目的に適合的なものになることが最も近道でしょう。

同書を見ていると,これを使って授業したいという気がとてもわいてきます(…といっても僕自身は学部時代に増井良啓先生東京大学)の集中講義を聴いただけで,租税法を専門的に勉強したわけではありません)。NOTEに挙がっている設例はかなり難しめで,これをこなすには学生のみならず教える側にも相当な事前準備が必要になりそうですが,それでも教材として使いたいと思わせる同書の魅力は並大抵のものではないと思います。