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高橋和之・立憲主義と日本国憲法

立憲主義と日本国憲法

立憲主義と日本国憲法

初学者向けのオーソドックスな憲法の入門書です。


本書の前身は2001年に放送大学教材として出版されていた「立憲主義と日本国憲法 (放送大学教材)」です。憲法の教科書にはいろいろなスタイルがありますが,本書はその前身と同じく,主として初学者を対象とする入門書の体裁を取っています。そのため,文献に関する脚注はほとんどありませんし,高橋和之先生ご自身の論文についてのリファーもありません。おそらくはいわゆる体系書としてはすでに先行するものがあるため,それとは違うジャンルでという意図であろうと思います。
入門書としての本書の完成度は,先行前著から比べてかなり高くなっているように感じました。もともと高橋和之先生の文章は極めて読みやすいのですが,さらに本書では,いくつかの図が入っています。

  • 法の段階構造のイメージ(7頁)
  • 人権論の動態的イメージ(120頁)
  • 統治機構の全体構造(273頁)

といったこれらの図は,これまで抽象的に語られていた各所の文章を読む際に強力な手助けとなってくれそうです。
入門書としての位置づけとはいえ,本書は各所に高橋先生らしさが現れています。例えば,人権の第三者効力の部分で新たに付け加えられた「無効力説の再評価」は,近時立て続けに論文を発表されているこの分野でのご見解をまとめたものになっています。また選挙制度の項目では「多様性反映モデル」と「多数派形成モデル」の二つの概念を使って,ご自身の国民内閣制論を説明される一助とされています(この説明は前著にもありますが,項目名を新たに付け加えているようです)。
この他,目を引いた部分としては,新しい人権として「特別犠牲を強制されない権利」が付け加わり,予防接種訴訟等が事例としてあげられている部分,いわゆる外国人の公務就任権に関する先の最高裁の判決に対する以下のコメント

しかし,在日外国人に関しては,可能な限り日本人と同様に扱うべきであり,そのような制度設計がどうしても困難だとする事情があったかどうかを審査すべきではなかったであろうか。(同書・85頁)

などがありました。これから憲法の勉強を始める人,あるいは一旦勉強したものの,もう一度憲法の全体像を眺めてみたいという人には最適と思われます。