- 作者: 西村健一郎,菊池馨実,岩村正彦
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2005/10/01
- メディア: 単行本
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ロースクール時代に入って,いわゆるケースブックが多く出版されるようになりました。社会保障法の分野では学部生向けの副教材として「目で見る社会保障法教材」がありましたが,本格的ケースブックとしてはこの作品がおそらく初めてではないかと思います。
周知の通り,社会保障法は新司法試験の選択科目には入っていません。それを意識してか,本書はしがきでは,必ずしも法科大学院に特化したものではなく,公共政策大学院や学部の演習でも使える内容にしたとされています。本書の特色は,第一に,判決文のみならず,論文・報告書・国会会議録などさまざまなmaterialsを収録していることにあります。テーマによってはドイツやスウェーデン,アメリカといった他国の裁判判決(邦訳)を掲載しています。挙げられている資料とそのあとの設問を追っていけば,かなり高度な水準にまで達することができます。第二の特色は,各項目ごとに細かく,参考文献の掲示がなされていることです。挙げられている参考文献の水準・量ともに,学部上級者以上には最適であろうと思われます。ゼミ報告などの手掛かりとするにもよい出発点となりそうです。第三の特色は,設問の作り方です。設問はElementary,Basic,Advancedの三段階に分けられており,とくにAdvancedにはいろいろと面白い問題があります。例えば
健康保険では標準報酬制がとられているが,最近みられる成果主義賃金の導入などの賃金政策の変化によって,現在の標準報酬制では問題が生じないだろうか。
Aは,その後も保険料滞納状態が続き,保険者(社会保険庁)からの強制的措置もとられないまま,40歳を過ぎてしまった。これによって,Aはどのような経済的不利益を受けるだろうか。Aは,保険者(社会保険庁)の強制権限不行使を根拠として,この経済的不利益の回復を図ることはできるだろうか。
といったものです。こうした設問の中から派生させて,修士論文などのテーマが生まれてくるのかもしれません。
なお,ケース等が登場する前に,そのケース等がどのような意味で選択されているのかを説明している部分とそうでない部分とがあり,学習者の立場からは前者のスタンスで統一した方がよかったのではないかという気がします。