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Konstanz als Heimatstadt

小田中直樹・フランス7つの謎

フランス7つの謎 (文春新書)

フランス7つの謎 (文春新書)

行政訴訟・5つの謎...ではありません。


現在dpiせんせが留学中のフランスは,非常事態宣言が出されるほどの状態になっています。またdpi先生のブログを拝読していても,フランスってこんなにいい加減なんだろうかと思わせることが多々あります。本書の著者はフランス留学経験を多く持っており,フランスで抱いた7つの謎に解答を与えることで,フランスとフランス人の現実に迫ろうとしています。その7つの謎とは,

  • なぜ政教分離をめぐって延々と議論が続くのか
  • なぜいつでもどこでもストに出会うのか
  • なぜ標識がバイリンガル表記なのか
  • なぜマクドナルドを「解体」すると拍手喝采されるのか
  • なぜアメリカを目の敵にするのか
  • なぜ大学生がストライキをするのか
  • なぜ美味しいフォーやクスクスが食べられるのか

です。とくに最初と二番目の問いに対する解答は大変興味深いものでした。

最初の問いから引き出される帰結は次のようなものです(同書・35-36頁)。

...異質な文化や宗教に対して,彼らは基本的に寛容ではありません。存在を認められたければ,共和国の価値を受容し,フランス国民になるべきだ,それは可能であり,また,そうすれば出自の如何を問わず対等にとりあつかわれるはずだ,彼らはそう考えています。
...(中略)...
フランスのルールには,同化する意思を示したものは無条件にうけいれ,差別しない,というメリットがあります。一定の基準を守れば対等な存在としてあつかわれるわけですから,移民が活躍する場は広がります。

これを念頭に置いて現在の非常事態宣言が出ているフランスを眺めれば,なんとなくなぜあのような状況が生み出されるのか,その背景が分かるような気がします。

二番目の問いに対する一つの解答は,フランスでは革命的サンディカリズムの思想が強いからだとします(同書・52頁)。それはそれで興味深いのですが,さらに筆者は,

ところが,どういうわけか,ストライキに反対する声はさほど強くなりません。たいていの場合,みな辛抱強くストライキが終わるのを待っています。なぜなのか,本当のところはわかりませんが,多分「いつかは自分もストライキをする番が来る」と考えているからではないかと思います。あまりはっきりとストライキ反対を主張すると,自分がストライキをするときに困ります。この「おたがいさま」という心理が,直接行動を支えています。逆に,この心性がなければ,いくら革命的サンディカリズムみたいな思想が広まったとしても,直接行動という文化は長続きしないでしょう。

と分析しています(同書・67頁)。いわれてみれば…という感じですが,コロンブスの卵のような印象を受けた文章でした。ちなみに本書の著者も滞在許可証がなかなか発行されずに困ったという体験があるようです。