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Konstanz als Heimatstadt

三瀬勝利・薬が効かない!

薬が効かない! (文春新書)

薬が効かない! (文春新書)

風邪のシーズンの前に読んでおきたい本です。


最近要注意なのは「肺炎」なのだそうです。ここ2,3年だけみても親戚などで肺炎になった人が何人かいました。肺炎というと,たいていは入院して抗生物質を点滴すれば治りそうです。しかし,最近は抗生物質の効かない菌(耐性菌)が原因の肺炎が増え始めているそうです。その原因は,必要以上に抗生物質を投与し,あるいは抗菌グッズとよばれるものが身の回りに溢れたからだとのことです。たしかに病院に行けば必ず抗生物質は出されます。それが副作用の危険があることくらいは認識していますが,飲み過ぎることで抗生物質が効かなくなる菌を増やしてしまっていることまではあまり意識していませんでした。
著者は同書の中で,このままでは抗生物質が効かなくなって感染症による死者が増えてしまうだろうとし,その原因を日本社会の構造にも求めています。まず,抗生物質がわが国の社会保険制度の中で安価に処方できるようになったために,必要以上の抗生物質が投与される結果を招いたことです。また抗生物質は人間だけではなく,養殖場などでも使われており,こうしたこともまた耐性菌を増やす結果に結びついているそうです。加えて,身の回りに溢れる抗菌剤・抗菌グッズは予防効果の割に耐性菌をどんどん増やしてしまう問題も持つとします。
こうした現状を踏まえ,著者は次のような提案をします。まず,耐性菌は抗生物質が氾濫しているからこそ比較優位を保って増殖するのであり,抗生物質が減れば耐性を持たない菌の方が増えていくので,抗生物質を必要以上に投与しないことが大事だとします(同書・157頁以下)。また,不必要な抗菌グッズは使わない・作らないように規制すべきであり,また国はもっと感染症研究に予算を振り向けるべきであるとも主張します(同書・166頁以下)。また個人でできる対策としては,抗生物質に頼らず,予防(人混みを避けるなど)やワクチン(予防接種)を活用すること,精神的な健康を保つように工夫することなどをアドバイスしています(同書・173頁以下)。風邪の時によく抗生物質を飲みますが,風邪はほとんどがウイルス性であり,ウイルスには抗生物質は全く効果がないので,とくに若い世代で抗生物質を風邪のときに処方するのは意味がないどころか耐性菌を増やして有害な結果を招くのだそうです。抗生物質の使い方についてより慎重に考えなければならないことが分かりました。
なお,本筋とは違いますが,次の一節が目を引きました。

なお,高名なノーベル賞受賞者・ボーリング博士が唱えたばかりに有名になった「風邪にビタミンCが効果がある」という学説は,大規模な調査研究の結果,現在では疑問視されている。(同書・182頁)

俗説を信じて,最近はみかんをよく食べるようにしていたんですが...。