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Konstanz als Heimatstadt

矢作弘・大型店とまちづくり

大型店とまちづくり―規制進むアメリカ,模索する日本 (岩波新書 新赤版 (960))

大型店とまちづくり―規制進むアメリカ,模索する日本 (岩波新書 新赤版 (960))

以前から読みたいと思っていましたが,ようやく読むことができました。


本書についてはすでにid:galaxykikiさんが(旧)Crystalで取り上げておられました。
大型店に対する規制は,日本市場の閉鎖性を端的に表す典型例としてかつて批判されました。しかし,大型店に対する出店規制のツールとして期待された準都市計画区域が思ったほど機能を発揮せず,大型店の出店ラッシュが相次いでいます。ただ出店するだけならばまだしも,これらは儲かる間だけ商売をし,儲からなくなったら店をたたんで次の場所に新しい店を出すスクラップ・アンド・ビルドと呼ばれる方式をとっています。本書はこれを「焼畑商業」と呼んでいます(同書・6頁)。中心市街地からにぎわいが失われる一方で,安普請の大型店に捨てられると地域の商業基盤そのものが喪失するという状況の中で,まちづくりはどのような戦略をとるべきか,本書はアメリカ及び日本の豊富な事例をベースに議論を展開します。
本書の前半2/3はアメリカにおける大型店の実態とそれに対する規制の試みを紹介しています。アメリカの大型店の代表であるウォルマートがいかなる手法で利益を上げているのか,またそれに対して地方自治体のレベルでどのような規制策が模索されているのか具体的に説明しています。読んでいて印象的なのは,アメリカにおいては利害調整のシステムが透明であることです。自治体レベルにおける紛争という社会実態は大店法時代の日本とあまり変わりませんが,その調整過程が市民からみて明らかであり,またそこには市民がいろいろなルートで参加する途が開かれています。規制手法としては問題がありそうな事例もいくつかあるとはいえ,ベースラインそのものから学ぶべきところは多いと思います。
本書の後半1/3は日本における大型店出店規制あるいは中心市街地活性化策の具体例が紹介されています。以前のエントリでもとりあげた福島県条例の構想も詳しく説明されています。他に尼崎市金沢市佐賀市太宰府市などの事例も紹介されています。そして,本書を締め括る部分では,地域デモクラシーの考え方が取り上げられています。従来の大型店出店の政治・行政過程で見られた大型店+消費者vs地元商店街という構図とは違う図式が近時少しずつあらわれており,そこには地域の経済資源は地域による決定・管理のもとに置くべきだとする発想があることを著者は指摘します。
都市計画法など「まちづくり三法」の見直し作業が進んでいます。その中では都市計画の手法を使って大型店の出店規制をする方向性が検討されているようです*1。本書の示す具体例や分析は,その制度設計の際にも参照の価値が高そうです。

*1:このことに関する新聞記事など,詳しい情報は角松生史先生のweblogにあります。