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Konstanz als Heimatstadt

原田信男・コメを選んだ日本の歴史

コメを選んだ日本の歴史 (文春新書)

コメを選んだ日本の歴史 (文春新書)

コメを通してみた日本通史です。


日本人にとってコメは独特の意味を持つ食べ物です。本書はコメを通して日本史を眺めてみることで,コメの持つ特別な意味を改めて認識させてくれます。コメがどのように日本に伝えられ,それが日本の原始・古代にどのようなインパクトを与えたか,あるいは石高制社会が成立した近世におけるコメの経済的・社会的地位はどのようなものであったか,明治以後のコメの生産は日本の近代史においてどのようなインパクトを持ったのか,そして現代のコメ政策はいかなる問題点を抱えているか,こうした諸論点につき様々な角度からのアプローチがなされています。
個人的に関心を持ったのは,なぜコメが聖なる食べ物となっていったのかの分析です。すでに古代律令国家において肉食に比して天皇が祭祀を司る食べ物としてのコメが聖なる存在であるとの意識が見られるようです(同書・112頁)。中世に入ると殺生の禁止との関係で肉食に穢れのイメージが強まるのと並行して,コメが聖なる存在となり,かつそのコメを生産する農民以外が徐々に賤視の対象となっていったようです(同書・144頁)。我々が持つコメに対するイメージはどうやらこの時代に起源がありそうです。