ernst@hatenablog

Konstanz als Heimatstadt

大塚直=北村喜宣編・環境法ケースブック

環境法ケースブック

環境法ケースブック

新しいタイプのケースブックです。


行政法の参照領域の中でも,環境法は質の高い概説書が多い法分野です。加えて,今般の司法試験制度改革で環境法が選択科目に入ったことにより,ケースブック教材も登場しました。
とはいえ,本書のスタイルは,次の2点においてこれまでのケースブックとはやや趣を異にしています。第1は,ケースブックにもかかわらず設問に対する答えが詳しく用意されていることです。本書はしがきはその理由について,

本書は何のために作られたか。それは,環境法学を「どのように勉強すればいいのか」という法科大学院生からの熱い問いかけに対して解答する必要があることを,私どもが痛切に感じていたからである。そして,本書を企画する際,特に注意したのは,伝統的な法律科目とは異なり,「問題と解答」というかたちだけではほとんど議論がなされてこなかった環境法の分野では,単に問題を掲げるだけでなく,それに対してどのように答えるかをサンプルとして明示する必要が高いことであった。

と説明しています(本書・i頁)。このような特徴により,本書は,環境法の本格的な演習書として位置づけることができます。その素材は新しい判例のみならず,論文にも求められています(この点では,以前紹介した『社会保障法 Cases and Materials』と同じ路線です)。
第2は,全15章のそれぞれが「法政策上の問題」と「訴訟上の問題」の2つの節から構成されていることです(章の特性上こうした区別ができない第6章「公害・環境民事訴訟」を除く)。前者では主として制度設計論の観点から現行法制や外国法制が説明され,後者では具体的な事件を素材に,法的論点が丁寧に説明されています。法科大学院生は後者の勉強が中心となりますが,公共政策系の大学院や学部演習では前者の記述が役立つように思われました。参考文献の情報も詳しく,ゼミ報告の出発点としても使えます。
本書は「環境法」と題されてはいますが,その素材の多くは行政法総論と関係しています。本書を通読すると,行政法の復習にもなると思います。