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大田弘子・経済財政諮問会議の戦い

経済財政諮問会議の戦い

経済財政諮問会議の戦い

経済財政諮問会議の軌跡がわかる作品です。


著者は2002年から3年間にわたり経済財政諮問会議のサポートのため内閣府に入り,そこでの経験をベースに本書を執筆しています。内部から見た経済財政諮問会議の様子が生き生きと描かれています。
第1章「経済財政諮問会議の登場」は,経済財政諮問会議の政治過程における役割と特色について説明しています。経済財政諮問会議は伝統的な霞ヶ関の調整方法を大きく変え,政策決定過程を透明化したことが評価されています。第2章「バブル崩壊後の負の遺産からの脱却」では,経済財政諮問会議の初期の日本・世界経済の状況の中で,会議のとりえる選択の幅がいかにわずかなものであったかが印象づけられます。経済状況の厳しさの中,緊縮路線に対して政治的な反対を抑えきったこの時期は,今後の日本政治・行政史研究の重要な対象となるような気がします。第3章「”骨太方針”がつくってきた歩み」では各年度ごとの骨太の方針が何を目指し,それがどう展開したのか,かなり細かく紹介されています。第4章「予算改革をめぐる戦い」は,成果主義予算導入の動きと,その現段階までの経過をまとめています。第5章「諮問会議による政策形成プロセスの変化」では,政策決定過程の透明化とスピード化が小泉内閣の特色であり,その重要な契機は数値目標の重視にあったことが説かれています。そして具体的な政策過程の分析が,第6章から第9章「政策の現場からⅠ〜Ⅳ」で,それぞれ社会保障制度改革,法人税率引き下げ問題,三位一体改革,歳入歳出一体改革がとりあげられています。これらはそれぞれの政策形成過程を勉強する上でも重要な資料となると思われます。最後に第10章では,「”民間人”が政策に関与する意味」と題して,諮問会議と与党との調整の問題や諮問会議の積み残しの課題が整理されています。
小泉改革の評価をする場合に避けて通れないのがこの「経済財政諮問会議」です。本書が明らかにしているように,この会議の存在によって政策形成過程が透明化されたことは大きな実績だと思います。

プロセスの変化は,政策の中身ほど目立たないが,持続力を持つ。透明なプロセスやわかりやすいメッセージに慣れると,人々は容易に元に戻ることを許さないからである。(本書・124頁)

筆者は,こうしたプロセス改革により,小泉内閣後も政策形成過程の透明化は維持されるであろうと述べます(本書・267頁)。他方で,経済財政諮問会議の(内部の視点からみた)負の側面についての記述が少しでもあると,バランスが取れてよかったのではないかという気もします。