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Konstanz als Heimatstadt

小川原正道・評伝 岡部長職

評伝 岡部長職―明治を生きた最後の藩主

評伝 岡部長職―明治を生きた最後の藩主

最後の藩主の明治期における活躍を描いた作品です。


本書の主人公である岡部長職1854年に岸和田藩主の子として生まれます。ちょうど前年にペリーが来航し,幕末の動乱が始まりつつあった時代でした。長職は幕府から朝廷へと政権が移行する時期に藩主となり,その後は廃藩置県によって藩知事の座を追われて東京に出てきます。東京では慶應義塾に学び,またアメリカ留学を果たします。その経験を生かし,長職は外交官として不平等条約改正交渉に関わったり,大津事件に関与したりします。その後は貴族院議員となったり,司法大臣となったりし,最後は枢密顧問官となります。
幕末から明治期にかけての通史はよく知られていますが,その中で旧藩主が新政府とどのような関係を持ったのかはいくつかの例外を除けばあまり知られていません。本書は,藩主から大臣に転身した1人である岡部長職の生き方をさまざまな資料を使って丹念に追いかけています。歴史の重要事件で岡部長職が実は関わっていたことがよくわかります。また岡部長職の子孫が太平洋戦争にどう関係していったのかも最後に触れています。従来にはない切り口で戦前の日本政治史を切り取った作品と言えると思います。