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Konstanz als Heimatstadt

火坂雅志・沢彦

沢彦(たくげん)

沢彦(たくげん)

織田信長のプロデューサー側からみた信長像が描かれています。


720頁にも及ぶ大部の作品で,空き時間に少しずつ読んで約1ヶ月かかってしまいました。しかし,話の筋は掴みやすく,断片的に読んでもよく伝わってきます。
沢彦(たくげん)は戦国時代の有力な寺社である妙心寺出身の僧侶で,織田信長に学問を教え,信長の天下統一を陰でプロデュースした人物です。とはいってもこれまでそれほど注目されては来ませんでした。沢彦は「岐阜」の名付け親,あるいは「天下布武」の印を考案した人としては知られていましたが,本作では沢彦の策士としての働きぶりが丹念に描かれています。
信長の師匠といえる沢彦からみた信長は,もろく,弱く,人間臭い側面を見せます。沢彦はその信長に天下統一という思想を与えることで,その実力を開花させます。しかし一時期を境に信長は自らが権威者となり,暴走を始めます。沢彦と出身寺社が同じ快川(かいせん)の死に様を見た沢彦は,ある決心をすることになります。
信長や信長の時代を扱う歴史小説が最近多いですが,その中でも本作は,沢彦の目から独自の視角を切り取っているように思いました。