奈良岡聰智・加藤高明と政党政治
- 作者: 奈良岡聰智
- 出版社/メーカー: 山川出版社
- 発売日: 2006/09/01
- メディア: 単行本
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加藤高明は戦前における普通選挙法の制定を主導した人物として,すでに小学校の歴史の授業でもその名が登場するほどに有名な戦前の政治家です。しかしその割には学術書における取り上げられ方はあまり大きなものではありませんでした。本書はさまざまなルートから一次資料を獲得しながら,加藤高明の生涯に沿って,彼の政治姿勢を明らかにしつつ,そこから戦前における二大政党制の形成過程を分析しています。
加藤高明は戦前における二大政党の一方である憲政会を率いていました。しかし本書を読むと,もう一方の潮流であった政友会とのつながりも強く,また本人に対しても政友会からの入党の誘いがあったことが分かります。人脈的な近さにもかかわらず,加藤が二大政党の他方の極にこだわった理由の一つが,イギリスにおける政党政治のあり方であったようです(本書・127頁)。加藤の海外経験はイギリスに限定されていましたが,逆にイギリスに関する知見は豊富でした。本書ではこのイギリスと日本の関係という問題も記述の対象に含まれており,当時のイギリス人が日本の政治状況をどう見ていたのか知る上でも役立ちます。
戦前における二大政党制は原敬の政友会と加藤高明の憲政会とで主として構成されていました。とはいえ憲政会が政権を獲得していた時期は結果としては短いものでした。しかし本書は,長く野党生活をしていた加藤高明の憲政会が,にもかかわらず政権獲得に向けた確かな活動があったために最終的には政権獲得に成功し,また加藤の死が早くなければ,もう少しこの時代が続いていたであろうとのべます。さらに,戦後改革における民主化の流れは,もとをたどるとこの加藤高明の憲政会にもあることを強調しています(本書・418頁)。選挙制度の改革以来模索が続いている現在の二大政党化の帰趨を考える上で,加藤高明の政治姿勢には様々なヒントがあるように思われました。