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Konstanz als Heimatstadt

柴辻俊六・信玄の戦略

信玄の戦略―組織、合戦、領国経営 (中公新書)

信玄の戦略―組織、合戦、領国経営 (中公新書)

最新の研究成果を踏まえた,武田信玄の通史です。


戦国時代の雄として,また川中島の戦いの一方当事者として,武田信玄は広く知られています。本書は従来の信玄像の基盤となってきた江戸期の軍学書『甲陽軍艦』から少し離れ,最新の研究成果を取り込んだ信玄の通史を描いています。
その際に力点が置かれているのは,いかにして武田信玄が領国を経営し,また領国の拡大を図っていったのかということです。当時の甲府盆地の生産性の低さにもかかわらず武田信玄が全国にその名をとどろかせたのは,その経営手腕によるところが大きいという著者の判断によるものです。とりわけ他国との同盟とその切り替えの戦略や,家臣団の編成方法について,詳しく記述がされています。
信玄の戦略のうまさが本書の中心ですが,本書の端々に描かれる勝頼の失策もまた,興味を惹くところです。いわゆる長篠の戦いだけで勝頼が没落していったのではなく,同盟戦略の(今日の視点からみると)失敗や,家臣団との不和がむしろ大きな要素であったことが分かります。