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Konstanz als Heimatstadt

山田昌弘・少子社会日本

少子社会日本―もうひとつの格差のゆくえ (岩波新書)

少子社会日本―もうひとつの格差のゆくえ (岩波新書)

経済面・文化面からみた少子社会分析です。


著者は『パラサイト・シングルの時代』『希望格差社会』など,日本社会の現状を我々の生活実感に近い要素から分かりやすく説くことでこれまでも知られていました。本書はその著者が,少子社会の問題にダイレクトに取り組んだ作品です。
著者は日本社会における少子化の原因を,経済的な側面と文化的な側面の二つの要素から取り出し,その相互作用によって説明をします。経済的側面とは,若者が定職に就けない状態になっている昨今の日本社会の経済状況であり,文化的な側面とは,著者が以前から指摘してきた「パラサイト」です。かつての日本社会ではそもそも結婚しないという選択肢はなく,また結婚の前後において生活が豊かになるモデルが存在していたこと,これに対し現在の状況ではその期待が成立しないことが最も大きな要素として指摘されます。
解決策の提案として,著者は大きく次の3つを挙げます。1つは30歳までに若者が定職に就けるような雇用システムを実現すること(雇用の安定性確保),2つは教育の機会均等と教育による階層流動性の維持,3つは若者がコミュニケーション能力を高めるための機会の確保です。3つめは大変ユニークな視点であり,コミュニケーション能力が発達しないと男女間の関係は成立し得なくなった現代への対応策とのことです。
日本社会のあり方を考える上で,少子化と格差のキーワードは欠かせなくなった感があります。その両者の要素をうまく使って現在の日本社会の状況を分かりやすく分析しているところに,本書のよさがあると思います。