藤井良広・金融NPO
- 作者: 藤井良広
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2007/07/20
- メディア: 新書
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2006年の貸金業規制法改正の際には,多重債務者問題の解決が大きくクローズアップされました。その際に対策として必要だとされたのが,いわゆるマイクロクレジットです。世界的にはグラミン銀行がとりわけ有名*1ですが,すでにわが国でもいくつかの事例があることが紹介されています*2。本書はこのマイクロクレジットをわが国で展開する先進事例を取り上げて,金融NPOの可能性を議論しています。
わが国における金融NPOの誕生は,不良債権問題から貸し渋り・貸し剥がしが深刻化した時期と重なります。しかしこうした機器の時期が過ぎても金融NPOは増加傾向にあります。著者は金融NPOの源流をかつての頼母子講に求めます(本書・6頁)。戦前から戦後の一定時期までは存在していた頼母子は,信用組合や無尽といったしくみとともに,庶民金融の重要部分を構成していました。しかし戦後はいわゆる営利金融が主流となり,こうした非営利的な金融システムはわが国においては長く忘れ去られていました。
マイクロクレジットのわが国における先進事例を検討しているのは本書の第3章です。教会を背景にした日本共助組合や,宮古事件をきっかけにはじまった岩手県消費者信用生活協同組合などが取り上げられています。これらに共通するのは,生活再建のためのカウンセリングが貸付と一体として行われていることです。ここに消費者金融との大きな違いがあるのでしょう。2006年の貸金業規制法改正で金融庁サイドは,消費者金融業を銀行業に近づけること,あるいは銀行がこうした庶民金融を手掛けることを志向しているように見えます。しかし,生活再建とのセットで貸付を行うには,金融NPOが持つきめの細かさや機動力の方により大きな期待がもてるようにも思いました。
*1:坪井ひろみ『グラミン銀行を知っていますか―貧困女性の開発と自立支援』(東京経済新報社・2006年)が詳細です。
*2:吉野信行「貸金業の規制等に関する法律の改正と貸金業を取り巻く環境変化」法律のひろば60巻4号(2007年)4-9(5)頁。