老いてゆくアジア―繁栄の構図が変わるとき (中公新書 1914)
- 作者: 大泉啓一郎
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2007/09/01
- メディア: 新書
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日本の少子高齢化について取り上げた本は数多いですが,本書はアジア全体の高齢化の問題を取り上げ,その影響と手当の方法を議論しています。
著者は「東アジアの奇跡」がなぜ起こったのかを分析するのに,低貯蓄→低投資→低生産→低所得の貧困の悪循環を断ち切る「人口ボーナス」という概念を利用しています(本書・53頁)。これは,出生率の低下が生産年齢人口の割合の急速な増加をもたらし,それが経済発展のエンジンとなるという考え方のようです。わが国では1930年代からこの人口ボーナスが始まり,1990年代に終了したとします。団塊の世代が担い手となった経済成長の現象そのものはアジア諸国にも共通していますが,高い貯蓄率と高い教育水準が早い段階で調ったことが急速な発展につながったとします。これに対し,人口ボーナスを利用する社会発展が遅れた例として本書は中国とタイをとりあげています。
アジアの急速な経済成長を支えたこの「人口ボーナス」は日本では既に終了し,他の国々でも終了に向かっています。これが経済発展のマイナス要因となると本書は見ています。それとともに,高齢者を誰が養うのかという(広義の)福祉政策の枠組設計が重大な問題になってきます。著者の示す回答は,福祉政策の面で協力する東アジア共同体の構想(本書・186頁以下)です。社会保障の領域においては国際協力の方法の一つとして「政策対話」が以前から行われていました。本書が示すのはその積極化による共同体への発展と位置づけることができそうです。