- 作者: 武村政春
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/09
- メディア: 新書
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遺伝子DNAを中心に分子生物学が語られ,それが我々の一般社会における「生命」「人間」の見方を大きく規定しています。これに対し本書は,DNAに対してそれほど大きなプレゼンスを与える必要はなく,むしろRNAやタンパク質との相互関係により注目すべきと主張しています。
本書は高校生物程度の知識をもっていれば,なんとか読むことができる難易度になっています。懐かしいと思いながら読んだのは,RNAの3つの種類です。DNAの遺伝情報をコピーするためのメッセンジャーRNA(mRNA),タンパク質の原料のアミノ酸をリボゾーム(タンパク質を製造するところ)まで運ぶトランスファーRNA(tRNA),リボゾームを形作っているリボゾームRNA(rRNA)という3つは確かに習った記憶があります。本書を読むとRNAの役割はこれ以外にも広がっていることが最近知られるようになってきており,分子生物学のキーポジションはむしろRNAに移っているという印象を受けました。
本書によれば,DNAはRNAの情報を保存しておくバックアップコピーであり,生物の遺伝の現象は,DNA・RNA・タンパク質という3つの要素の相互作用として捉え直す必要があるとします。DNAという言葉,あるいはヒトゲノムは,人間や生命が全てはじめから「仕組まれている」存在だとの印象を与えていますが,遺伝の過程はそれほど単純なものではなく,むしろ環境要因などさまざまな要素によって変わって行きうることが分かります。DNAに関する昔の知識をよみがえらせるのにも,また最近の分子生物学の動きの一端に触れるのにも本書はよい手引きとなっているように思いました。