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三宅伸吾・市場と法

市場と法

市場と法

日本の経済とその法システムの変容をコンパクトにまとめています。


著者は日本経済新聞社編集委員であり,これまでも日本経済や法システムに関する著書を出版してきました。本作は1990年代後半から現在に至る日本近代化後「第三の改革期」といわれるこの時期の中間総括としての色彩を持っていると言えます。
本書を読んでまず感じる印象は,ここ最近の日本経済を取り巻く環境やそこで起きた著名事件について,かなりの詳細度で紹介・議論していることです。有名な経済事件については判決文も引用されており,最近の経済事件を法的に分析する場合の出発点としても使える著作だと思います。また扱われている問題群が極めて広いのも特色です。それを裏付けているのが,本書の謝辞に書かれた氏名の多さとその専門分野の広さです。本書は市場原理が機能する幅を広げる方向で展開してきた「第三の改革期」を基本的に肯定的に評価しており,その中で起きている行政と経済界の関係の変化や,司法・検察の姿勢の変化をドキュメンタリータッチで描くことを中心にしています。とはいえ,その中で克服すべき課題にも目を向けており,たとえば刑事手続改革(「人質司法」の問題)はその一つだと思います(本書・140頁)。
本書のもうひとつのメッセージは,こうした日本社会の構造変革にともない,法律家の役割の重要性,あるいは市場における法的規律の必要性を説いているところです(本書・292頁以下)。以下の本書の結びの言葉は,(自分自身を含め)法律に携わる職業人に大きな宿題を投げかけているように感じました。

1億総投資家時代や市場空間の拡大に備え,取り締り当局には厳正・公正な市場監視と法執行が求められる。大型のビジネス紛争が法定に持ち込まれるようにもなり,市場国家・日本で,法律家が影響を与える社会空間はますます広がる。規律の包囲網の形成やその運用に深く関与する法律家の動きは,人々の意識にも確実に変化を与えていくだろう。法律家の姿が総体として社会の共感を集めることが,市場国家の信任継続の必要条件である。(本書・313頁)