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富田俊基・財投改革の虚と実

財投改革の虚と実

財投改革の虚と実

2001年度からの財政投融資改革がどのような効果と問題点をもっているのかを分析しています。


預託義務の廃止と財投債・財投機関債発行のスキームへの転換がなされた2001年の財政投融資改革は,その後の郵政民営化の呼び水の一つともなりました。しかしこの改革によって頭書の目的は達成されたのか,問題点は生じていないかについての検証を試みた作品はあまり多くありません。本書が提示している問題はまさにこの点をテーマとしています。
本書が取り上げている内容は極めて多岐にわたります。これらを通底する著者のメッセージは「マーケットは,政治が決めるべき事を判断することはできなかった」(本書・はしがきV頁)ということになるようです。つまり,財政投融資が用いられる個別事業の必要性の問題は政治が判断すべき問題であり,ここに手をつけないまま「兵糧攻め」だけしていては形だけの組織改革に尽きてしまう,というのです。
本書がさらに指摘している問題点は,財投債は通常の国債と同じものとして,また財投機関債であっても市場では暗黙の政府保証がついているものとして流通し,評価されているということです。その結果,財投機関債のスプレッドは結局縮小傾向にあるとします(本書・75頁以下)。にもかかわらず財投機関債は財投機関が独自に発行する債券であるからという理由で,国会によるコントロールが及んでいません。もう1つの大きな問題点は,組織改革によって独立行政法人が廃止されると,繰上償還が行われ,国民負担はその限りでは増加しているということです(本書・197頁以下)。この問題の背景には,公的主体の破綻法制が整備されないまま現在に至っていることがあるとします。