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Konstanz als Heimatstadt

島村英紀・私はなぜ逮捕され,そこで何を見たか。

私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか。 (講談社文庫)

私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか。 (講談社文庫)

逮捕と勾留の様子が比較的客観的に記されています。


ここ最近,こうした刑事手続に関する体験をもとにした作品が続いている気がします。事前規制からの脱却の影響なのかどうかは分かりませんが,刑事手続がサンクション手段として以前よりも積極的に使われるようになったことで,逆にこれまであまり知られてこなかった刑事手続の実態がこうした諸作品により世に問われることになったとも言えるのでしょう。
本書は,北海道大学に在籍していた地震の研究者が,研究費に関する問題で逮捕されることから始まります。文庫というサイズの限界もあったためか,本書の中ではこの事件そのものについての記述はあまりありません。むしろ逮捕され,取り調べられ,刑事訴訟に進んでいくまでの様子が(少なくとも類似の他作品に比べて)「客観的」に書かれているところに特色があります。例えば,毎日どういう食事が拘置所で出されているかが克明に記されています(本書・132頁以下)。あるいは拘置所内の生活スタイルや官本・テレビ・ラジオの視聴といった様子も詳しく説明されています。書き手が理系の研究者であることが影響しているのだと思いますが,そのため拘置所内での処遇を考える上での基礎資料,あるいは刑事法入門時に刑事手続の具体的なイメージを得るのに非常に有用な内容が提供されているように思われました。
文庫本なので安価で手に入り,また比較的短時間で読み通せてしまいますが,本書を読み終えたときに感じる「重さ」は文庫のサイズには到底収まりきれないものがあるように感じました。