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Konstanz als Heimatstadt

Peter D. Ward・恐竜はなぜ鳥に進化したのか

恐竜はなぜ鳥に進化したのか―絶滅も進化も酸素濃度が決めた

恐竜はなぜ鳥に進化したのか―絶滅も進化も酸素濃度が決めた

酸素濃度が生命の進化に大きな影響を与えたことが示されています。


ここ最近は恐竜と鳥との共通性が強く意識されるようになり,恐竜は絶滅したのではなく鳥に進化したという表現も見られるようになりました。本書はその理解に基づくタイトルではありますが,本書が明らかにしていることはその問題にとどまりません。むしろ生命の進化全般に関して,地球の酸素濃度が与えた影響の大きさを説いています。
本書はまず,生命にとって酸素がいかに大事な役割を果たすか説明した後,酸素濃度と二酸化炭素濃度の経年変化を紹介しています(本書・64頁)。これをみると生命の大規模な絶滅の際には酸素濃度が低下したことが分かります。また現在の二酸化炭素濃度は地球の歴史から見てかなり低い水準にあることも分かります。酸素が低い頃に生命は酸素を獲得するために大きな進化を遂げてきたことも本書でよく分かります。例えば,中学校の理科の時間に勉強する心臓の四室構造(右心房・右心室・左心房・左心室)はそれ以前の両生類・は虫類の三室心臓とはちがって,動脈血と静脈血が混じり合わないしくみにすることでペルム紀後期の低酸素時代を生き抜く工夫だったことが書かれています(本書・224頁以下)。地球史上最大の絶滅事件といわれるペルム紀絶滅では,単に酸素濃度が下がったというだけではなく,海洋深層の硫化水素が水面に放出されたのではないかという仮説も説明されています(本書・215頁)。
一部の恐竜が発達させ,現在の鳥類が用いている「気嚢システム」と呼ばれる呼吸の仕組みについても本書は詳しく説明しています(本書・259頁以下)。鳥類は肺とは別に気嚢とよばれる袋をもち,これを上手く利用することで常に新鮮な空気で肺が満たされるしくみをとっています。本書は酸素濃度の将来について確たることは語っていませんが,もし低酸素時代に再び入るとすると,気嚢システムを持つ鳥類がほ乳類を圧倒することになるのかもしれません。