- 作者: 菅英輝
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2008/03
- メディア: 新書
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本書が取り上げているのは朝鮮戦争・ベトナム戦争・イラク戦争であり,本書の主題は,何故アメリカが戦争をするのかを明らかにするところにあります。また本書は第2部で対ヨーロッパ関係を取り上げ,アメリカとヨーロッパとの関係の中から戦後史におけるアメリカの軍事・外交政策の特色を明らかにすることも試みています。
アメリカの「正義の戦争」という考え方の背景を説明するキーワードとして,本書はデモクラティック・ピース論とリベラル・ピース論を挙げています。よく知られるデモクラティック・ピース論は,民主主義国家同士は戦争をしにくいという考え方ですが,逆にそうではない国家体制の国に対しては攻撃的になるとするのがリベラル・ピースないしリベラル・ウォー論の教えるところです。アメリカのこうした発想はすでにベトナム戦争の段階で出ています。国内的にはリベラル路線を歩んでいた当時のジョンソン政権がなぜベトナムに積極介入したのかについて,本書では,国内のリベラル政策を海外へと波及させることが目的であったと分析しています(本書・34頁)。また「他者性の再生産」(本書・206頁)が冷戦後も続くことによって,こうした正義の戦争は繰り返され,今後も繰り返され続けるだろうと本書は予測します。
戦争の大義名分が自国の利益とは観念的に切り離されると,戦争を抑止する論理が効きにくくなってしまうように思います。そうした観点からすると,アメリカの「正義の戦争」は確かに本書の予測の通りになるのではないかと思いました。