- 作者: 深井雅海
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2008/04/01
- メディア: 新書
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江戸時代について扱った本はたくさんありますが,本書の大きな特色は,江戸時代の政治の中心であった江戸城の本丸御殿の構造を基軸にして,江戸期の政治状況を分析しているところにあります。
例えば,徳川綱吉の時代の初期に発生した大老堀田正俊暗殺事件を契機に側用人政治が始まることは広く知られています。それまで将軍御座所の近くにあった老中たちの御用部屋がこのことを契機に将軍御座所から遠ざけられ,将軍と御用部屋とを行き来する側用人の力が強くなったと説明されます。この点について本書は,4代家綱時代の老中合議制から,5代綱吉時代の将軍独裁制へと政治形態が変化したことが真の原因であるとします(本書・70頁)。本書の分析によると,老中とは行政の最高職であり,老中たちの会議は稟議によっていました。これに対して将軍がイニシアティブを握るためには,老中たちの影響力を抑える必要があったというのです(本書・150頁にも関連記述があります)。
江戸時代には,5代家綱・6代家宣・8代吉宗と,将軍直系ではない人が次の将軍になる事態が続きました。本書はその際に,それまでの家臣団が江戸城に入って幕臣になる現象とそれがもたらした政治的な影響にも注目しています(本書・152頁以下)。もちろん柳沢吉保や加納久通といった個人名は知られていますが,それを幕臣化という切り口で眺めるのは新たな視点だと思いました。