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Konstanz als Heimatstadt

鈴木譲仁・「猛毒大国」中国を行く

「猛毒大国」中国を行く (新潮新書)

「猛毒大国」中国を行く (新潮新書)

中国の環境・安全問題を衝撃的に描いています。


今年初めに起こった中国製の冷凍餃子中毒事件は,その後原因究明が進んでいないように見えます。しかし本書を読むと,このような事件は珍しいことではなく,むしろ起こるべくして起こったことが分かります。本書が具体的に取り上げているのは,春雨の消毒における有毒な薬品の使用,人造の商品,段ボール肉まん報道の真相,公害・環境問題(癌村など),漢方薬をめぐる詐欺といったものであり,いずれもショッキングな内容を含みます。
ルポという方法を取っている以上仕方がないことですが,本書の内容を客観的に検証する手がかりは望めません。他方で本書が指摘している中国の問題点,例えば人権・法治主義の欠落やマス・メディア統制といった要素は他の文脈でもしばしば指摘されています。その意味で本書の結論部分については他の方法での検証もある程度可能ではないかと思います。
本書のおもしろい点は,中国社会の歪みが大きいにも関わらず,中国社会がこれまでのところ平穏を保っているのかを検討しているところです(本書・183頁以下)。本書によれば,宗族と密接な関係がある村民委員会が各地域の統治を担当する構造が大きな役割を果たしているとします。たしかに本書の各所でこの村民委員会が環境問題・安全問題を握りつぶしているケースが出てきていました。この点の分析は十分には行われていませんが,中国社会の現実を説明する大きな要素になっていることはよく分かりました。