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Konstanz als Heimatstadt

大統領辞任の衝撃

ドイツのホルスト・ケーラー大統領(67)は5月31日,アフガニスタン派兵をめぐる問題発言の責任を取って辞任を表明した。アフガンのドイツ軍を視察した際,「ドイツのような貿易依存国は経済権益を守るために軍事介入が必要だ」と発言し,国内で批判を浴びていた。
同大統領はメルケル首相と同じキリスト教民主同盟(CDU)所属で昨年7月に再選を果たし,現在2期目。任期を4年残しての辞任に関係者は驚いている。
財務官僚出身で2000〜04年に国際通貨基金IMF)専務理事を務めた経済通だが,ギリシャ財政危機に端を発したユーロ危機ではまったく発言しなかったため,「存在感がない」と批判された。
ドイツの大統領は連邦議会連邦参議院を通過した法案に署名するが,権限は形式的だ。連邦議会議員と各州の代表による大統領選定国民会議が開かれ,後任大統領が選ばれる見通し。(ロンドン 木村正人)

IZAの昨日付記事からです。


ドイツでは昨日衝撃が走りました。ちょうど1年前に大統領に再選されたケーラー大統領が辞任しました。上記の記事にあるようにその理由はアフガニスタンでのラジオのインタビューでの発言が国内で批判を招いたということでした。問題の発言は以下の通りです。

"In meiner Einschätzung sind wir insgesamt auf dem Wege, in der Breite der Gesellschaft zu verstehen, dass ein Land unserer Größe, mit dieser Außenhandelsabhängigkeit, auch wissen muss, dass im Zweifel, im Notfall auch militärischer Einsatz notwendig ist, um unsere Interessen zu wahren - zum Beispiel freie Handelswege, zum Beispiel ganze regionale Instabilitäten zu verhindern, die mit Sicherheit dann auch negativ auf unsere Chancen zurückschlagen, bei uns durch Handel Arbeitsplätze und Einkommen zu sichern. Alles das soll diskutiert werden - und ich glaube wir sind auf einem nicht so schlechten Weg."

ただ,発言の責任を取って辞任した,というまとめ方は正確ではありません。辞任会見の中で大統領は,自分の発言が誤解されたこと,また大統領という職に対する尊敬や信頼がその結果失われたことを辞任の理由としています。上記の引用では経済的な利益を守るために軍事行動が必要だという広い意味にもとれますが,本人としてはソマリアの海賊に対する軍の派遣を念頭に置いてのことだったようです。このような辞任の理由の背景にはドイツの大統領の地位の特殊性があるのかもしれません。ドイツの大統領はアメリカと違って実質的な権限がほとんどありません(全くないわけではありません)。大統領は連邦集会での間接選挙で選ばれますが,政党色があまり強い候補者は好まれず,むしろ国民統合の象徴としての役割が期待されています(昨日テレビインタビューに出演したメルケル首相は,次の大統領候補の条件として,みんなが支持してくれる人物を挙げていました)。さらに,ケーラー大統領はもともと政党人としてのキャリアに乏しく,財務官僚の道から大統領に転身した人物でした。政党とのつながりよりも国民とのつながりを重視したいという気持ちは強く,今回のことでそれが失われたのが辞任に繋がったのではないか,と言われています(→Fankfurter Allgemeine Zeitungの記事)。
ケーラー大統領はドイツで初めて,任期途中に即時辞任した大統領となりました。現在大統領職は連邦参議院(Bundesrat)議長が代行していますが,辞任から30日以内に新たな大統領が選出されることになります。連邦集会では現在の与党のCDU/CSU,FDPが過半数を持っているので,これらの政党が支持した候補が当選するのが順当だと思われています。