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Konstanz als Heimatstadt

森信茂樹・日本の税制

日本の税制――何が問題か

日本の税制――何が問題か

日本の税制の骨格を平易に説明した上で,改革の論点を提示しています。


租税法の体系書は改訂のたびに厚くなる一方で*1,租税法の骨格を勉強するのはかなりのモティベーションが必要になってきています*2。本書は一般書でありながら,租税法の基本的な骨格を分かりやすく説明し,さらには改革の必要な論点を提示する意欲的な著作です。
本書では,1・2章で租税法・租税理論の基本的な内容を扱い,3章以降では個別の税制(所得税法人税相続税・消費税・地方税)ごとに,現在のしくみと諸外国の法制度,さらに改革の方向性を示しています。ニュースでしばしば耳にする税法上の問題点,例えば納税者番号制(140頁),給付付き税額控除*3(171頁),法人税引き下げ問題(214頁),益税(285頁),税源移譲(316頁)などがほとんど網羅されています。また,読んでいて興味深かったのは政権交代後の税制決定システムの分析(325頁)です。税制というセンシティブな問題に政治・専門家・官僚がどう関わるべきかはなかなか答えの出せない問題であることを実感できました。

*1:800頁を超えている水野忠恒『租税法[第4版]』(有斐閣・2009年)では,すでに初版はしがきの段階で「膨大な法令や裁判例をかかえる租税法について,理論的体系書として「租税法」という1冊でまとめることには限界に達したと感じている(iii頁)と指摘しています。

*2:他方で租税法ではコンパクトで平易な入門書(古典的名著として金子=清水=宮谷『税法入門[第6版]』(有斐閣・2007年),最近のものとして岡村=渡辺=高橋『ベーシック税法[第5版]』(有斐閣・2010年),単著のものとして,佐藤英明『プレップ租税法』(弘文堂・2006年)や増井良啓「展開講座 租税法入門」法学教室355号(2010年)〜連載中 など)が比較的多いので,勉強する気持ちが高まれば一気に理解できるのかもしれません。

*3:法律学からの興味深い分析として,藤谷武史「給付つき税額控除と「税制と社会保障制度の一体化」?」新世代法政策学研究(北海道大学)3号(2009年)303-332頁があります。