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Konstanz als Heimatstadt

松岡資明・日本の公文書

日本の公文書─開かれたアーカイブズが社会システムを支える

日本の公文書─開かれたアーカイブズが社会システムを支える

社会におけるアーカイブの役割を分かりやすく論じています。


2009年に制定され,来年春からの施行が予定されている公文書管理法は,まだその意義があまり広く知られるに至っていません。本書はその制定経緯から説き起こし,社会における開かれたアーカイブの役割を論じています。
本書の前半約1/3は,公文書管理法の制定の経緯や内容・意義を説明しています。よく知られているようにこの法律の制定に中心的な役割を果たしたのは福田康夫元首相でした。また初代の公文書管理担当大臣であった上川陽子氏や当時の民主党の公文書政策担当者だった逢坂誠二衆議院議員が果たした役割も詳細に書かれています。
法律は制定されたものの,日本の国立公文書館の職員数や,そのインフラ面(設備面や人材育成)にはなお不足する点が多々あります。本書はこの点を指摘した上で,より広く公文書・アーカイブの歴史的役割をいくつかの素材を取り上げて議論しています。具体的に挙げられているのは国有林史料(64頁),外邦図(72頁)などです。
特に興味を惹いたのは,宇城市アーカイブスの取り組みです(150頁以下)。全国で初めて文書管理条例を制定した宇城市で,どのような経緯からこうした発想が出てきたのか,現場での受け止め方はどのようなものであったのかが詳細に書かれています。宇城市の初代市長になった阿曽田清氏が,就任した年に提示したアーカイブス構想は,職員の間での動揺・反発を招いたそうです。保存期間が満了したら捨てるのが常識の公文書を捨てないようにさせることの大変さが伝わってきます。
公文書を保管することの意義やよさは,かなり時間が経過してからでないと出てきません。その点で,公文書管理法の目的規定に将来世代への説明責任が盛り込まれたのは象徴的とも言えます。見えにくいベネフィットとはっきり捉えられるコストとの関係でベネフィットを優先させる取り組みは至難であることを改めて感じさせる作品でした。