井上寿一・山県有朋と明治国家
- 作者: 井上寿一
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2010/12/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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山県有朋といえば,軍国主義のイメージと結びつき,対外膨張政策と国内における強権的な政治スタイルがまず浮かんできます。しかし本書は,こうしたイメージを変える作品となっています。
山県は日本陸軍創設者として広く知られています。また,統帥権の独立を作り上げたことから,その暴走が戦争に繋がった歴史と重ね合わせて,山県=悪のイメージが広がっています。これに対して本書は,山県に対して中立的な評価を試みます。軍隊のない近代国家は存在しない以上,誰かが軍隊を作らなければならず,山県はまさにその仕事をしたのだと本書は指摘します。また統帥権の独立については,政治的な影響を受けず作戦や用兵に専念する参謀本部の独立は近代的国民軍の前提条件で,これをもって文民統制が崩れたと判断するのは無理があるとします(本書・50頁)。
山県はまた,政党政治に対する強力な反対者として知られ,社会主義勢力に対する強い警戒を示してもいました。しかし本書は,山県の体制危機への警戒はむしろ右からのもの,つまり右翼・国権主義者・大陸浪人などからのものだったと指摘しています(本書・229頁)。皇太子欧州歴訪問題や宮中某重大事件のなかで山県が対峙したのは,非政党勢力とくに宮中・国権主義者だったとの指摘はとても興味深いものがあります。
本書を通読することで,山県に対するこれまでのイメージを再考する契機が与えられるとともに,明治の近代化を評価する軸そのものの複雑性・多元性を改めて認識できます。