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Konstanz als Heimatstadt

藻谷浩介・デフレの正体

デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)

デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)

絶対数をみることの重要性を繰り返し説いています。


本書の主張を要約すれば,日本の経済・社会問題は人口減少という要素を無視しては考えることができず,これからの政策は人口減少と高齢者の増加という社会構造のもとでどのような対策をとらなければならないかを率直に考えるべきである,となります。
その前提として本書が重視しているのが,「前年比」や「比率」ではなく「絶対数」です。例えば世界同時不況下でも日本の貿易黒字は続いていますし,国際収支の面でも毎年10兆円を越える金利配当収入を海外から得ています。また,青森県の県民所得は総額に注目するといわゆる失われた10年の間に増えています。21世紀に入ると青森県も首都圏もこの数字が下がっており,地域間格差という見方は嘘であると本書は指摘してます(本書・75頁)。
本書は日本経済の基礎代謝の低下こそデフレの正体であり,それは高齢人口の増加と人口全体の減少にあると指摘しています。いわゆる人口ボーナスという考え方はとてもシンプルなアイデアですが,人こそ労働し,所得を生み出し,消費する主体であると考えると,その総数が減れば経済活動も小さくなるのは当たり前だとも言えます。本書はこうした観点から「成長戦略」「内需拡大」「技術革新」「少子化対策」「外国人労働者受け入れ」がいずれもぴったりの解とはならないとします。
その上で本書が提唱しているのは,高齢富裕層から若者への所得移転,女性の就労,外国人観光客の受け入れ増加です。これらはたしかにいずれも,国内経済の基礎体力ともいうべき生産と消費を増やす手段であると言えます。また本書は,現在の賦課方式に見られるような現役世代が高齢世代を支える構造はもはや人口構成上維持できなくなると指摘しています。
すぐそこまで来ている高齢人口の急増という事態に対して率直な分析をしている本書の提言の中には現実化までのハードルが高いものもありますが,日本社会の今後の進路を指し示す興味深い内容が多いように思われました。