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Konstanz als Heimatstadt

村山斉・宇宙は何でできているのか

宇宙は何でできているのか (幻冬舎新書)

宇宙は何でできているのか (幻冬舎新書)

気が遠くなるようなおもしろい話がたくさんあります。


宇宙はどうやって誕生し,どのようなものから構成されているのかという問いは,我々の視野をとてつもなく大きな方向へと引っ張ります。しかしその問いを解くには,原子や電子よりもさらに小さいミクロの世界に注目することが必要になります。本書はこうした素粒子物理学の立場から,宇宙の誕生と展開,宇宙の構成原理を説明しています。
2002年にノーベル物理学賞小柴昌俊博士が受賞した際に出てきたのが「ニュートリノ」という言葉でした。本書はまずこのニュートリノから宇宙の構成要素を説明し始めます。最近の観測結果によると,目に見える星たちを集めても宇宙の全エネルギーのわずか0.5%にしかならず,それと同じ量があるとされるニュートリノを足しても全体の1%にしかならないそうです(本書・43頁)。宇宙の大半を占めているのは暗黒物質(ダーク・マター)と暗黒エネルギーであり,宇宙の膨張を支えているのは暗黒エネルギーと考えられています。
こうして本書は,素人が前提としている物理や化学の知識──万物を分解すると原子にたどりつくという考え方とは大きく違う最新の素粒子物理学の世界を,なるべく数式を使わず平易な言葉で説明しています。記述を丁寧に追いかければ意味が分からないことにはならないのですが,本書が説明している宇宙の構成はあまりに気の遠くなるようなことばかりで,好奇心を刺激してもなかなか実感を伴って理解することができません。小さなものから大きなものまで,あらゆるものを一つの理論で説明しようとすることのおもしろさと難しさの両方を示している作品であると思います。