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Konstanz als Heimatstadt

徳本広孝・学問・試験と行政法学

学問・試験と行政法学 (行政法研究双書)

学問・試験と行政法学 (行政法研究双書)

行政法の観点から分析した学問法・試験法に関する日本で初めての本格的モノグラフィーです。


大学の組織・運営や研究者に対する支援などの法制度はドイツでは「学問法」としてまとまって議論されています。日本でもその成果を踏まえた論文がこれまでも公表されてきましたが,本書はこの点に関する本格的なモノグラフィーです。著者の2002年から04年までのドイツでの在外研究の成果を踏まえ,学問法と試験法に関するドイツの議論の精緻な分析と,これを踏まえた日本法への示唆が説得的に展開されています。2005年に本学で開催された集中講義でその一端に触れることはできていましたが,本書はその全貌を提示し,さまざまな論点へと議論が波及しています。
本書は大きく「学問法」の部分と「試験法」の部分とに分かれます。「学問法」を扱っている第1部では,大学に対する国家関与のあり方,大学の組織をめぐる訴訟の可能性,大学外の研究機関(具体的にはマックス・プランク研究所),研究者の不正行為とオンブズマン制度,大学と警察の関係が扱われています。いずれもドイツにおける法制度と議論の分析が先行し,その成果を日本法に応用する構造になっています。日本で現在アクチュアルな問題として認識されているさまざまな点が取り上げられており,学問法の問題領域の広さを実感します。「試験法」を扱っている第2部では,試験と法治主義の関係,試験と訴訟(とくに裁量・不確定法概念の議論との関係),試験手続の違法,個別領域における試験法が分析対象となり,最後に日本法への示唆として,試験判定の法律上の争訟性,国立大学の入試判定の問題などが取り上げられています。
学問法・試験法という個別参照領域研究のスタイルをとりながら,本書では行政法総論・公法一般理論のさまざまな論点への言及がなされています。学問の自由・自治の問題や行政組織の調整のあり方から法治主義・行政手続・裁量統制・個人情報保護に至るまで,総論上の論点で関係しないものはほとんどないのではないかという印象を受けます。これらの論点についての最新の研究成果と突き合わせることで学問法・試験法の分析を進め,逆に学問法・試験法の分析から総論の概念を再考するという研究スタイルが一貫して取られており,一方では学問法・試験法の参照領域としてのポテンシャルの高さを,他方では現在の日本とドイツの行政法総論の理論的到達点を知ることができます。