- 作者: 高橋伸夫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/04/09
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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- できるだけ客観的にこれまでの成果を測ろうと努め,
- 成果のようなものに連動した賃金体系で動機づけを図ろうとするすべての考え方
(同書・68頁)をいい,そのどちらかの条件があるものには弊害が発生するとしています。
本書の主張を乱暴に要約すれば,3点にまとめられます。第1に,そもそも評価を「客観化」すること自体が不可能であり,成果主義では客観的な基準は示せていないこと,にもかかわらず「客観的に見える」評価がまかり通ることで,サラリーマンのモチベーションが低下してしまうことです。第2に,成果に対して賃金で報いても効果的ではないことです。仕事のおもしろさが分かり,次に大きな仕事を任してもらえることで達成感・満足感が得られるというサラリーマンのマインドからすれば,賃金による格差は仕事へのモチベーションを高めてはくれないと主張します。第3に,企業にとって最も重要なのは人を育てることであり,ただ指をくわえて待っていてもよい人材はあらわれないことです。
以上のような主張から,同書では,日本型の年功制こそ企業の成長のために適切なシステムであるとのべています。年功制によれば,給料は成果に応じるのではなく生活給であり,成果を上げた人に対する報酬は新しい仕事です。日本企業の成長を支えたのはこうしたシステムだったと筆者は強調します。
バブル崩壊後の日本の経済不況の中で,日本型年功制は旧態依然のシステムの代表格であり,成果主義・能力主義という考え方は民間はもとより,公務員の世界にも導入されようとしています(まだ足踏みはしていますが)。しかし,日本の経済不況をもたらした真の原因は,無計画な不動産投資や世界の経済潮流から取り残されたことにあったのだとすれば,その原因を見誤って年功制を破壊してはならなかったはずということになります。筆者の主張はいずれも説得力があり,一気に読み通せてしまう魅力を持った本です(ただし6・7章については経営学等の基礎知識がないと読みにくいように思われました)。
「仕事の面白さに目覚めた人間だけが,本当の意味で一生懸命働くのだから。」(同書・205頁)
という考え方,一緒に仕事がしたいと言われることが最高の評価フレーズだという筆者の主張に共感します。組織の法律学を検討する際には,その組織における人材育成システムの要素を抜きにしてはならないことが強く印象づけられた一冊でした。