- 作者: 大石道夫
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2005/02
- メディア: 新書
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (3件) を見る
アデニン・グアニン・チミン・シトシンという4つの構成要素の並び方を解析するゲノム解析により,人間がDNAを操作できるようになる可能性は飛躍的に高まりました。同書はその光の部分として先に挙げた問題をとりあげています。とくに興味を引いたのは遺伝子組み換え食品の安全性に関する記述です。なんとなく不安があると思ってこれまで避けていましたが,同書によれば遺伝子組み換え食品はその分農薬の使用を減らすことができ,またDNAは人間の消化・吸収過程では吸収されないので安全性に問題はないとしています。他方で,同書はDNA利用の「影」の部分の言及も忘れてはいません。DNAを利用する遺伝子治療がさらにすすんで,よいDNAを遺伝子操作によってたくさん残したりクローン人間が生まれたりすると,これまでの人間社会を形成していた基本的な準則が崩れてしまい,人間社会は内側から崩壊する危機にいたるのではないかとしています。同書は早くてここ10年,遅くてもここ半世紀以内にこうした問題に対応するための方策を考える必要がでてくるとしています。法律学はこうした問題に対して一定の貢献をすることが期待されます。その一方で,法律によるコントロール力の限界にも注意する必要があります。同書が的確に指摘しているように,従来の優生論とちがい,今後問題となってくる「優生」論は国家レベルではなく個人レベルの選択の問題に収斂されるからです。この問題の解決には自主規制が処方箋として有効であるように考えられますが,この点についてはD論リライトのなかで考えてみたいと思っています。