ernst@hatenablog

Konstanz als Heimatstadt

大石道夫・DNAの時代

DNAの時代 期待と不安 (文春新書)

DNAの時代 期待と不安 (文春新書)

DNAに関する情報が氾濫する現代にあって,その基礎的な情報を分かりやすく提供してくれるのが同書です。DNAがなぜ注目されるに至ったのか,生命にとってDNAとはどのような役割を持っているのか,DNAで分析すると人間の起源はどこに求められるのか,遺伝子組み換え食品は安全なのか,生物の絶滅とDNAの関係はどうなっているのか,DNA治療で病気はどこまで治るのか,など,現在話題になっている多くのトピックについて,難しい言葉や概念を使わずにわかりやすく説明しています。DNAに関する基礎知識についての多くは高校時代に聴いた生物の内容と重なっており,読んでいてかなり懐かしくなりました。

アデニン・グアニン・チミン・シトシンという4つの構成要素の並び方を解析するゲノム解析により,人間がDNAを操作できるようになる可能性は飛躍的に高まりました。同書はその光の部分として先に挙げた問題をとりあげています。とくに興味を引いたのは遺伝子組み換え食品の安全性に関する記述です。なんとなく不安があると思ってこれまで避けていましたが,同書によれば遺伝子組み換え食品はその分農薬の使用を減らすことができ,またDNAは人間の消化・吸収過程では吸収されないので安全性に問題はないとしています。他方で,同書はDNA利用の「影」の部分の言及も忘れてはいません。DNAを利用する遺伝子治療がさらにすすんで,よいDNAを遺伝子操作によってたくさん残したりクローン人間が生まれたりすると,これまでの人間社会を形成していた基本的な準則が崩れてしまい,人間社会は内側から崩壊する危機にいたるのではないかとしています。同書は早くてここ10年,遅くてもここ半世紀以内にこうした問題に対応するための方策を考える必要がでてくるとしています。法律学はこうした問題に対して一定の貢献をすることが期待されます。その一方で,法律によるコントロール力の限界にも注意する必要があります。同書が的確に指摘しているように,従来の優生論とちがい,今後問題となってくる「優生」論は国家レベルではなく個人レベルの選択の問題に収斂されるからです。この問題の解決には自主規制が処方箋として有効であるように考えられますが,この点についてはD論リライトのなかで考えてみたいと思っています。