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Konstanz als Heimatstadt

佐藤優・国家の罠

国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて

国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて

2002年に世間を騒がせた田中眞紀子外務大臣(当時)と鈴木宗男衆議院議員(当時)との対立,その後の検察による捜査の中で,筆者はいわゆる鈴木宗男一派として逮捕・拘留されます。この逮捕・拘留劇を中心に,筆者が描き出すのは「国策捜査」の実態です。国策捜査はえん罪とは違い,時代の区切り目になされるものであり,はじめから立件の結論があるためにどんな小さな犯罪でもつかまえて調べ上げ,最後は執行猶予付き判決で終わらせる点に特徴を持っていると筆者は説明しています。この事件では,所得再分配的な考え方から競争の尊重への転換,全方位外交的な姿勢から親米路線への転換という二つの転換点に鈴木宗男事件の中核があったのだとしています。「検察ファッショ」批判も唱えられる昨今ですが,こうした国策捜査がどのような当事者のマインドで進んでいるのかがよくわかります。

「事実は小説より奇なり」という言葉がありますが,筆者の描く拘置所での様子や取り調べの風景は(事実であるかどうかに関する読者の注意深い読みは必要ですが)かなりリアルで,それだけ読んでも興味深い内容です。食事は意外においしいとか,判子は使えないとか,ラジオのニュースはかなりおくれて入ってくるなど,知らないことばかりでした。行政法学の観点からは,拘置所での処遇の問題や検察のあり方の問題もまた興味を引くものでした。

同書のもうひとつの魅力は,ロシア・ロシア人に関するさまざまな情報が得られることです。筆者はロシアスクールの有力なメンバーであり,日ロ平和条約締結交渉に深く関わっていました。ロシア人は酒を飲まない人を信用しない(酒によってどの程度人格が変わるのか見ている),筋を通す人をロシア人は好む,といったロシア人気質についても同書の説明は極めて詳細です。ロシアに関心を持っている方にも同書の内容はおすすめできます。