ernst@hatenablog

Konstanz als Heimatstadt

中村靖彦・牛肉と政治

2001年に我が国でも確認されたBSEは,牛肉に対するのみならず,我が国の食品(食品安全行政)に対する消費者の信頼を失わせるきっかけになりました。同書ではこの過程を描くとともに,なぜ牛肉が政治過程の中でこれほどの役割を持つに至ったのか解明しています。

著者の中村靖彦氏は名著『農林族』の著者であり,米問題に関するフィールドワーク・インタビューで知られるジャーナリストです。今回の牛肉問題の解明にあたっても,米問題の分析で用いられた手法が生かされ,さらに,アメリカの食肉業界事情まで分析が及んでいる点が興味深いところです。アメリカにおいては日本以上に牛肉業界と政治家(とくに共和党)との結びつきが強く,その影響がBSE全頭検査・アメリカ産牛肉輸入再開問題に影を落としています。日本とアメリカの業界団体の活動が生々しく描かれている点にとくに関心を持ちました。

著者は食品安全委員会の非常勤委員でもあり,食品安全委員会がどのように活動しているのか,そこではどのような議論がなされているのかに関する記述も豊富です。まだ設置されて日が浅い同委員会の活動実態を示した資料としても価値が高いと思われます。