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内田隆三・社会学を学ぶ

社会学を学ぶ (ちくま新書)

社会学を学ぶ (ちくま新書)

ある分野を勉強し始めるときに最初に出会うのがいわゆる「入門書」です。入門書には新書クラスの大きさのものが多く,勉強が進むにつれてこのジャンルを馬鹿にしがちになりますが,僕は「入門書」はその分野に有望な新人をどれくらい連れ込めるかを決定づける重要なジャンルだと思っています。理想的には基本書と入門書を兼ねるようなものがあれば一番いいのですが,基本書は初学者へのわかりやすさと詳細な記述との微妙なバランスの上に成立しているため,基本書にオールラウンドな役割を期待するのは酷なのかもしれません。

「入門書」には2つのタイプがあるような気がします。1つは,その分野の概観性を確保し,どのような内容があるのかをまんべんなく案内してくれる「マップ型」です。社会学の入門書としては富永健一社会学講義―人と社会の学 (中公新書)』(中央公論新社・1995年)がまさにこのタイプの名著だと思います。同書は読みやすくわかりやすいのに加え,社会学にはどのような種類があるのか,今どんな研究がなされているのかを平易な言葉で説明してくれます。もう1つのタイプは「核心提示型」とでも言うのでしょうか,その分野の中核的な「問い」を中心に,あらゆる分野からそれに迫っていくものです。今回紹介する内田隆三社会学を学ぶ』(筑摩書房・2005年)はこのタイプです。

「私は社会学のすべてを学んだわけではない。百科全書的な紹介に徹するなら,もっとたくさんの頁が必要だろうし,多くの人びとの協力も仰がねばならない。私がこの冊子で言いたかったことはたったひとつ,人びとの生の様態について本質的なことを考えること,それが私の考える「社会学を学ぶ」ことである。」(同書・237頁)


同書の特色は,著者が社会学を学んできた過程をベースラインにおきつつ,社会学のさまざまな考え方を批判的に紹介している点にありそうです。入門書とはいえ記述はかなり高度で,社会学を専門とはしない僕にとっては理解しがたい点も数多くありました。しかし,ある程度わかる部分(デュルケム・ウェーバーパーソンズ・システム理論あたりまでしか僕はついていっていませんが)の記述は明晰で無駄がなく,また核心をついた理解と批判が示されていました。全体的な印象としては,他分野の読者がのぞきやすい「マップ型」ではなく,これから社会学に取り組もうとする意欲的な学生に向けたメッセージ性の強い「核心提示型」だと思います。

一方で筆者は,社会学の現状について「閉塞感」(25頁)「宙吊り状態」(26頁)といった表現を用いて警鐘を鳴らしています。社会学の到達点を示すことと同時にその問題状況をも提示し,新しい知的冒険へといざなっているこの作品は,隣接科目からみても社会学の魅力・可能性を示唆してくれるものです。