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Konstanz als Heimatstadt

竹村公太郎・土地の文明

土地の文明 地形とデータで日本の都市の謎を解く

土地の文明 地形とデータで日本の都市の謎を解く

日本各地の歴史上,あるいは地理上の疑問に対して,社会的インフラの観点から解答を用意するのがこの著書です。具体的には次の諸地域を取り上げています。

  • 東京
  • 北海道(石狩平野
  • 鎌倉
  • 新潟
  • 京都・滋賀
  • 奈良
  • 大阪
  • 神戸
  • 広島
  • 福岡

同書でなされている仮説提示と検証(検証部分については疑問が残るところもあるのですが)の作業は,知的な好奇心に満ちています。平易な文章ながら読者につまらなさを感じる隙を与えない,流れるような文章です。その仮説として出てくるものは,

  • 江戸城半蔵門は一般に信じられている「裏口」ではなくむしろ「正門」である
  • 赤穂浪士の討ち入りは幕府が裏で支援していたとしか考えられず,その背景には矢作川をめぐる吉良家と松平(徳川)家との因縁の関係があった
  • 最後の狩猟民族は広島を本拠とした毛利家であり,関ヶ原の戦いによって農耕民族の勝利が確定した

などです。
個人的に興味深かったのは,区画整理事業がなぜうまくいかないのかという記述です(同書・198頁以下)。その理由として筆者は,

  • 地籍の混乱…自分が持っていると思っていた土地が実はそれより小さかった,あるいは存在しなかったという事態が往々にして起きる。全関係者の権利関係を明らかにする作業だけで何年もかかってしまう。
  • 思い出の喪失…とりわけ集合住宅に住む高齢者は,その住居に対して特別の思い入れがある一方で,建て替えと自分の余命との関係を考えて再開発には反対する。

の二つをあげています。区分所有が抱える問題点は,先般の法改正によってもなお積み残されているという筆者の主張には説得力がありました。