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Konstanz als Heimatstadt

村上政博・法律家のためのキャリア論

弁護士・官僚・大学教授の3つの職を経験した著者によるキャリア論です。


研究者にはいろいろな方がおられるにせよ,著者の村上先生のように,弁護士・官僚・教授の3種類を経験したというのはかなりレアケースではないでしょうか。その著者の書くキャリア論ですので何が書かれているのだろうと注目して読んでいました。
第1章「体験的職業論」では,著者の経験をもとに,弁護士・官僚・研究者の世界がどのようになっているのかをわかりやすく説明しています。僕が余り知らない弁護士の世界はとにかく感心することばかり。研究対象でもある官僚の世界はやっぱりと思いながらも,各所にいろいろと新発見がありました。そして気になるのは現在属している研究者の世界…。

執筆活動とは,役人や弁護士の業務のように人間を相手とする(相手方がいる)ものではなく,文献と原稿用紙を相手にする孤独な作業である。しかし,この生活に長期間耐えられないと研究業績は生まれない。
また,息抜きとか気分転換の機会が比較的乏しい学者の世界で,社会の動きから隔絶された状況で自己の著作が社会的にいかなる評価を得るのか不明のまま,さらに出版の日の目をみるかも定かでないまま,長期間一人で物を書き続けることのストレスはきわめて大きい。

同書99頁の表現です。そこで著者は,これが若い人に対して研究者の人気が低い理由であろう,各職業のきつさを実感してきた者の方がそのよさが理解できると述べます(同書・109頁)。ただ,そのクリエイティブな性格に魅力を持つ若い人もそれなりにいるような気はします。
第2章の「人気上昇中の法律家」では,渉外弁護士・裁判官・企業法務担当者が紹介されています。渉外弁護士が高収入なのは知っていましたが,その分過酷な労働環境にあることはあまり知りませんでした。第3章では法科大学院の話題が扱われています。筆者は法科大学院に対してはおおむね肯定的評価をしているようです。また将来的には学部・法科大学院の5年一貫教育(学部1年飛び級)を視野に入れています。第4章は筆者自らの職業体験について具体的に記述されています。最後の第5章では,人材流動化が予測される今後にあって,どのような適性があればどの職業に向いているのかといったことが論じられています。
田中孝男先生のおっしゃるように,どちらかというと勝組み向きの本であることは間違いありませんが,学部生の方が自分のキャリアを検討する場合には有益なヒントがたくさんありそうです。また,弁護士・官僚(場合によっては研究者も)のシステム上の問題点を摘出する素材としても使えそうです。