- 作者: 堀口松城
- 出版社/メーカー: 明石書店
- 発売日: 2005/11/29
- メディア: 単行本
- クリック: 4回
- この商品を含むブログ (6件) を見る
レバノンはシリアとイスラエルとに国境を接する国で,地中海からわずかな距離で山脈となることから,急傾斜地が多いのだそうです。この地域としては珍しく杉(レバノン杉)が見られ,中東の宝石とよばれるほど美しい土地だそうです。
他方で,レバノンには18もの公認された宗教があり(宗教の博物館とさえ呼ばれるそうです),とくにキリスト教・イスラム教スンニ派・シーア派の対立は,パレスチナ問題とも絡んで17年にわたる内戦を引き起こす原因にもなりました。レバノンで多宗教が共存できるかどうかは中東和平の試金石とも言えます。
特に目を引いたのがヒズボラに関する記述です。日本ではヒズボラはシーア派のテロ組織というイメージが通常であるように思われますが,同書によればヒズボラは南レバノンでのインフラ整備などに取り組む一面があったり,支持拡大につれて綱領を穏健なものとしたりしているようです(同書221-228頁)。イスラエルがヒズボラの基地を攻撃する理由のひとつには内戦終了後に著しく経済発展をしているレバノン経済に打撃を与えることがあるのではないかと,多くのレバノン人は疑っているそうです。
一晩中数時間おきに来襲するイスラエル空軍機の攻撃に一睡もできず,ひたすら夜の明けるのを待ったが,自ら恐怖を経験して初めて,レバノンの人々が何十年にもわたって耐えてきた不条理な苦しみを理解できた思いがした。
上記の空爆について,数日後目にした日本のN紙は「イスラエル,ヒズボラ基地を空爆」という見出しの記事で伝えていたが,イスラエルの一方的な発表を日本の一流紙がそのまま伝え,ほとんどの読者は報道の内容が事実であると認識してしまう。そして,同じことが日本以外の多くの国でも起こっている。(同書・292-93頁)
レバノンの眼を通して見ないと分からない問題状況が中東和平には数々あることを教えてくれた1冊でした。