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神田秀樹・会社法入門

会社法入門 (岩波新書)

会社法入門 (岩波新書)

会社法のわかりやすい入門書です。


今年5月に施行されたばかりの新しい会社法の内容を平易ながらも高度なところまで説明している同書は,会社法の基本的なアイデアを解明しようとする点に大きな特色があります。
戦後,商法は頻繁に改正され,とくに最近は毎年のように改正されてきました。そのため門外漢にとっては,どこがどういう理由で改正され,その結果どうなったのかを追いかけることがかなり難しくなっています。しかし同書20-21頁は,

戦後の商法改正の特徴は,会社法を「ファイナンス」「ガバナンス」「リオーガニゼーション」という3つの分野に分けて整理するとわかりやすい。

として,企業金融分野,監査・企業統治分野,企業組織再編分野の3つについてその基本的方向性を説明しています(同書・21頁以下)。この部分を読むだけでも同書に触れる価値があると思います。
さらに,近時の法改正が頻繁になった理由として,同書は政府提出法案と議員立法との複線化,あるいは通産省による特別立法の先行を挙げています(同書・32-33頁)。このあたりは立法過程の現実を考える上で重要な素材を公法学にも提供していると思われました*1
個人的に気になったのは,同書のあとがきにある次の文章です(同書・213-214頁)。

新しい会社法は,21世紀にふさわしいルールを書ききろうとしたときの日本語という言語自体の限界を示しているように思う。数学と同様の言語革命を伴わない限り,条文の言葉としての分かりにくさは改善できないだろう。

会社法は,わかりやすくするために条文の並べ方や構造を工夫したり,準用規定をなるべく使わないようにした,近時の立法の中では革命的ともいえる手法を使っています。その立法に携わった著者の言葉だけに,重みがある文章です*2

*1:この点に関する公法学からの興味深い分析として,毛利透「官僚制の位置と機能」ジュリスト1311号(2006年)64-71(71)頁があります。

*2:ものを考える上での日本語という言語の限界の問題は,研究という業務に携わるときにはいつも感じています。