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Konstanz als Heimatstadt

下川浩一・「失われた十年」は乗り越えられたか

「失われた十年」は乗り越えられたか―日本的経営の再検証 (中公新書)

「失われた十年」は乗り越えられたか―日本的経営の再検証 (中公新書)

さまざまな産業分野における日本型経営を再検証しています。


中国特需を契機に,平成不況の長いトンネルを抜けた日本。本書は,「失われた十年」がなぜ生じ,日本型経営はその中でどのような試行錯誤を行ったかをたどっています。本書が取り上げているのは銀行証券業界・自動車業界・家電業界・流通業界の4つです。
不況が長引いた原因として本書は,経済のグローバリゼーションに即応できなかった政府の財政・金融政策と経営者の適応能力のなさを挙げています(本書・9頁)。過去の成功体験に引きずられ,経営環境の変化への対応が遅れた企業が業績を悪化させている事例を本書はいくつも挙げています(例えば,ダイエーが失敗し,イトーヨーカ堂が成功した要因として,本書は土地を購入して資産を膨らませる手法か,リースによる機動的出店かに注目しています(202頁))。
本書の特色は,平成不況が「構造改革」によって改善したことは評価しつつも,日本型経営に一定の評価をし,その再構築を求めているところです。またコーポレート・ガバナンスの確立の必要性を主張し,そこでは株主主権偏重ではなく,企業を取り巻く様々なステークホルダーとの調和も求めています(本書・286頁)。