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Konstanz als Heimatstadt

読売新聞中国取材団・膨張中国

膨張中国―新ナショナリズムと歪んだ成長 (中公新書)

膨張中国―新ナショナリズムと歪んだ成長 (中公新書)

中国の現状がさまざまな角度から分析されています。


本書は2005年8月から読売新聞に連載された「膨張中国」をまとめたものです。第1章「新ナショナリズム」では,2005年に発生した反日デモの舞台裏を紹介しています。とりわけインターネットに代表される新しいメディアが,体制側にとって大きな脅威となりつつあることが詳しく述べられています。第2章「揺らぐ社会主義」は,社会主義市場経済のもと,豊かになった都市部の生活と,貧しいままの農村部の状況とが対比されています。一人っ子政策によって誕生した「小皇帝」(ひとりっ子)は豊かな生活を送っているイメージがありましたが,本書はひとりっ子同士の過酷な競争状況にも注意を喚起します。第3章「市場経済の虚実」は人民元の切り上げ問題やエネルギー資源の問題,台湾企業と香港企業を取り込む様子などが描かれます。第4章「きしむ周辺世界」では,中国のブラックマネーが支えるフィリピンの覚醒剤天国,中国商人が経済を支配する極東ロシアや北朝鮮,そして台湾・韓国・ベトナムへの中国の浸透の現状が扱われています。日本人が考えている以上に中国の経済は周辺諸国に大きな影響を及ぼしています。第5章「米国との攻防」は中国とアメリカとの軍拡競争,宇宙開発競争,両国の政治的対立点である宗教・人権問題などが取り上げられています。
日本が長い不況から脱出するのを助けたのは2008年オリンピック開催などを契機とする中国特需でした。日本企業にとって中国は魅力的な市場であることは間違いありません。他方,本書の全体から伝わってくる現在の中国は,さまざまな要素のバランスを辛うじてとっている状態に見えます。一方では世界の先進諸国と肩を並べる大都市を持ち,めざましい経済発展と技術革新を進め,しかし他方では成長に伴う歪みと成長の恩恵を受けていない多数の人々が農村部を中心に存在しています。環境問題やエネルギー問題も中国にとって重要な課題です。将来的には日本を上回る高齢社会となることが予想され,その対策も必要となってくるでしょう。こうした諸課題にどのような方策を持って取り組むか,解答なき試行錯誤が続くことになると思われます。