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Konstanz als Heimatstadt

河野博子・アメリカの原理主義

アメリカの原理主義 (集英社新書)

アメリカの原理主義 (集英社新書)

アメリカの分極化の現状とその背景事情をインタビューを通じて解明しています。


現職のブッシュ大統領が当選した2000・2004年の大統領選挙では,アメリカの国論が完全に割れていることがはっきりとしたかたちで現れました。こうした分極化はなぜ起こっているのか,アメリカはどこに向かおうとしているのかを,さまざまな人とのインタビューを通して明らかにしている作品です。
本書はまず1990年代後半にアメリカ国内で起きたいわゆる極右によるテロを紹介し,そこに流れている考え方が現在の分極化ないし右傾化につながっていることを指摘します。極右というと白人至上主義だと単純に考えがちですが,本書を読むとそうではないことがわかります。アメリカ社会の病理現象,あるいは貧富の差の拡大のなかで,「落ちこぼれた人々」(本書・26頁)がこの運動の担い手になっていることが明らかになります。
続いて本書がアプローチするのは,近時大きな政治的勢力として知られるようになった「宗教右派」の実態です。もともとは「負け犬」と位置づけられていたこの勢力が次第にとくに共和党内で勢力を伸ばし,やがては大統領選挙の帰趨に大きな影響を与えるようになります。
さらに本書は「中絶」や「同性愛」といったアメリカの国論を二分している問題に進みます。これまでアメリカを席巻していたリベラルな考え方に対し,その行き過ぎへの警戒感やあるいは前述の宗教右派の考え方から,大きな思想上の対立関係ができていることが分かります。
最後に本書は,アメリ原理主義というべき考え方が存在するとの仮説を提示しています。しかし,現職のブッシュ大統領宗教右派を率いているという見方には懐疑的です(本書・204頁)。ブッシュ大統領は父が大統領再選に失敗した原因をよく見極めた上で,宗教右派宗教右派に反対する財政保守の人々の双方を支持勢力に取り込むことに成功したとの見解を紹介しています。
こうしたアメリカの現象は日本にとっても単に対岸の火事として済ますことができない面があるように思われます。それは日米関係への影響という外交上の問題にとどまらず,昨今の日本社会内部の問題とも重なり合う要素があるように感じられました。