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Konstanz als Heimatstadt

滝上宗次郎・やっぱり「終のすみか」は有料老人ホーム

やっぱり「終のすみか」は有料老人ホーム (介護ライブラリー)

やっぱり「終のすみか」は有料老人ホーム (介護ライブラリー)

有料老人ホームと介護をめぐる諸問題をわかりやすく説明しています。


著者は有料老人ホームを経営しながら,行政改革委員会参与などの公職も歴任しています。タイトルから見ると,有料老人ホームの宣伝(讃美)かと思いますが,内容はそうではありません。
本書の内容は大きく3つに分かれています。第1は,有料老人ホームがなぜ最近増加しているのか,逆に有料老人ホームの不祥事がなぜ続くのかといった,有料老人ホームを中心とする日本の介護政策全般にわたる問題を扱った部分です。著者は,ホームヘルパーと比較した有料老人ホームのメリットとして,職員のチームワークのもとで最適な処遇がなされること,設備が整っていることをあげています(本書・68頁以下)。他方で,有料老人ホームの「頭取り」と呼ばれる商慣習(最初に多額の入居一時金を支払うしくみ)が,有料老人ホームの引き起こす諸問題の根本にあることも指摘します(本書・126頁以下)。有料老人ホームの情報開示への努力を促すとともに,筆者は,消費者契約法によってこうした商慣習に改革のメスが入れられる可能性も展望しています(本書・129頁以下)。
第2は,認知症に対する対応の問題です。有料老人ホームにおける認知症の方への対応方法が詳しく書かれており,また認知症への対応力が有料老人ホームの実力を示しているとも述べます。認知症の行動が何らかの理由を持っていることについては断片的に聞いたことがありましたが,本書ではこの点についても詳しく説明しているので,認知症についての理解を深めるにも有用です(本書・136頁以下)。
第3は,有料老人ホームの選び方の基準です。著者は厚生労働省の行政指導に基づく「解約特例」(契約後90日以内ならばほとんど損害なく入居者は解約可能)が契約内容に含まれているかどうか,ホームの周辺に坂・階段が少ないかどうか,廊下が広いかどうかなどに注目するようにと述べています(本書・198頁以下)。また,ホームの職員の定着率が高いところほど,充実したサービスが期待できるとも指摘しています。
最近は高層マンションとともに有料老人ホームの建設が目立つようになりました。古くて新しい有料老人ホーム問題を考える上でよい手掛かりになる本だと思います。